NO216【資金繰りを改善するならまずこの数字を見直せ!】

2025/05/08 9:04:36 - By zaimclinic
資金繰り改善 NO3
資金繰り改善 NO216資金繰りを改善するならまずこの数字を見直せ!

  

中小企業や個人事業主にとって、「資金繰り管理」は経営の根幹です。売上や利益が出ていても、手元資金が枯渇すれば、事業継続が困難になります。いわゆる黒字倒産の大半は、資金繰りの失敗に起因しています。

 

資金繰りを改善したいと考えたとき、真っ先に「売上を伸ばす」ことに目を向ける経営者も少なくありません。もちろん売上は重要ですが、それ以上に着目すべきは「日々の数字」です。

 

たとえば、売掛金の回収が遅れていれば現金はなかなか入ってこず、支払いが先行していれば帳簿上の利益が出ていても手元資金が不足します。

 

つまり、キャッシュフローを圧迫する原因は「経営の数字のズレ」にあるのです。

本記事では、「資金繰りを改善するためにまず見直すべき数字」を3つに絞り込み、それぞれの数字が資金繰りにどう影響し、どのように見直すことでキャッシュを確保できるのかを詳しく解説していきます。

 

売掛金の回収期間を見直してキャッシュフローを改善する方法

 

なぜ売掛金の回収期間が資金繰りを圧迫するのか

 

売掛金とは、すでに取引が成立しているにもかかわらず、まだ現金が回収できていない状態のお金です。企業は、商品やサービスを提供したあとに請求書を発行し、一定期間後に入金を受けます。これがいわゆる「回収サイト(入金までの日数)」です。

 

しかし、この回収サイトが長いと、企業は「利益は出ているのに現金がない」という状態に陥ります

 

これは、手元にキャッシュがない状態で仕入れや給与、家賃といった支出を先に行わなければならず、外部からの資金調達が必要になる可能性を高めます。

 

仮に、月商1,000万円の会社が90日サイトで請求している場合、常に約3,000万円の売掛金が回収待ちの状態になります。これに対して60日サイトであれば、滞留する売掛金は約2,000万円。この差1,000万円が手元にあるかどうかは、資金繰りにとって極めて重大です

 

回収サイトの業種別目安と自社の適正水準

 

業種ごとに回収サイトの一般的な基準は異なります。以下は、参考となる業界平均です:

 

業種

標準的な回収期間

備考

製造業

45~60日

BtoB取引中心、請求書払いが一般的

卸売業

30~60日

顧客の規模により変動が大きい

小売業

0〜30日

多くが現金取引または即時決済

建設業

60~90日

工期が長く、請負契約特有の慣行あり

サービス業

30日以内

継続課金や月末締め翌月払いなどが主流

 

自社の回収期間がこの目安より著しく長い場合は、売掛金の回収プロセスに課題がある可能性が高いといえます。

 

売掛金回収を早めるための実務的な改善策

 

売掛金の回収期間を短縮するには、いくつかの具体的なアプローチがあります。

 

1. 与信管理の強化

取引先の支払い能力を事前にチェックすることで、未回収リスクを抑制できます。以下の方法を活用しましょう:

  • 信用調査会社(例:帝国データバンク、東京商工リサーチ)のレポート活用
  • 支払い遅延履歴の社内共有
  • 取引金額に応じた与信枠の設定

 

2. 請求フローの標準化・電子化

請求書の発行が遅れれば、入金も遅れます。以下の点を徹底することでスピードが向上します:

  • 取引発生後すぐに請求書を自動発行
  • 電子請求書システムの導入(Misoca、freee、マネーフォワード等)
  • 「月末締め翌月末払い」などの慣習を見直す

 

3. 早期支払いのインセンティブ制度

一定期間内の入金に対して割引(例:1週間以内入金で値引き)を設定することで、資金回収を加速できます。これは特に資金力のある大口顧客に有効です。

 

4. 滞納への即時対応

入金期日を過ぎた場合は、すぐにフォローの連絡を入れましょう。遅延対応が遅れると未回収リスクが増します

  • 初期は担当者レベルでの督促
  • 悪質なケースでは弁護士や債権回収会社の利用も視野に

 


支払サイトの見直しと仕入条件の再交渉で資金繰りに余裕を

 

支払サイトとは? その見直しが資金繰りに直結する理由

 

支払サイトとは、商品やサービスの納入から支払いまでの期間を指します。たとえば「月末締め翌月末払い(=30日サイト)」であれば、当月の仕入れ分の支払いは翌月末に行うという意味です。

 

この支払サイトが短ければ短いほど、企業は現金を早く用意しなければならず、資金繰りに負担がかかります。一方で、支払サイトを適切に延ばすことができれば、手元資金を長く保持でき、キャッシュフローに余裕が生まれます。

 

重要なのは、「売掛金の回収よりも仕入代金の支払いが先に来る」構造が継続すると、資金の流出が流入を上回り、慢性的なキャッシュ不足に陥るリスクが高まるということです。

 

支払サイトが短すぎる場合のリスクとサイン

 

以下のような状況が続いている場合は、支払サイトの見直しを検討すべきです:

  • 回収より支払いが先行し、資金ギャップが発生している
  • 毎月末の資金繰り表が「綱渡り状態」になっている
  • 支払いのために短期借入やファクタリングを頻繁に利用している

 

支払サイト見直しのための仕入先との交渉術

 

支払条件の見直しは、単なる「値下げ交渉」とは異なります。信頼関係を損なわず、Win-Winの視点で条件変更を申し出ることが重要です。

 

1. 現状の取引状況を可視化する

仕入先ごとに以下の情報を整理します:

  • 年間取引額
  • 平均支払サイト
  • 契約開始時期と信用履歴
  • 取引継続意志の強さ(自社にとっての重要度と、相手にとっての重要度)

 

数字を明確にしたうえで、誠意を持って交渉に臨むと成功率が高まります。

 

2. 支払サイトの延長を交渉する際の例文

 

「御社とは長く安定した取引をさせていただいております。そこで、当社のキャッシュフローの改善を目的に、現在の支払条件を月末締め翌月末から翌々月末払いに延長いただけないか、ご相談させていただければと思っております。」

 

このように、「取引継続の意志」と「会社としての健全経営」を両立させる表現が効果的です。

 

3. 他の柔軟な支払い条件も選択肢に

 

  • 分割払いの導入(月額払い、四半期払いなど)
  • リースや割賦契約の検討(設備投資が必要なケース)
  • 仕入数量に応じた支払いサイトの延長(大量購入時の交渉材料)

 

支払条件の見直しは一度だけで終わらせず、定期的に見直すことが経営の安定につながります。

 

支出全体を見直し、固定費削減へと展開

 

支払い条件の見直しと併せて、以下のような固定費の圧縮も検討しましょう:

  • サブスクリプション型サービスの棚卸し(使っていないSaaSなど)
  • 外注費の見直し(内容の内製化、単価交渉)
  • オフィス賃料や光熱費の見直し(移転や契約条件の再交渉)

 

小さな固定費の見直しが、資金繰り改善には大きな効果をもたらします。

 


在庫管理の改善が資金繰りに直結する理由とは?

 

なぜ「在庫」が資金繰りを圧迫するのか?

 

在庫は、「売れるまで現金化できない資産」でありながら、その仕入れや保管にはコストがかかります。つまり、在庫を多く抱えるということは、現金を「寝かせている」状態といえます。

 

たとえば、500万円分の在庫を抱えているということは、それだけの資金が商品として倉庫に置かれているということです。しかも売れ残れば、値下げや廃棄のリスクも発生し、結果的にキャッシュフローを圧迫し続ける要因になります。

 

加えて、在庫が多い企業は以下のようなコストも負担しています:

  • 保管費用(倉庫代、水道光熱費など)
  • 管理費用(在庫システム、人件費)
  • 劣化・陳腐化リスク(特に食品・アパレル・関連など)

 

つまり、在庫は「キャッシュを消費する資産」であるという認識が重要です。

 

見直すべき数字:在庫回転率と滞留在庫額

 

資金繰り改善のためには、在庫に関する以下2つの数字を定期的にチェックしましょう。

 

1. 在庫回転率(Inventory Turnover Ratio


在庫回転率 = 売上原価 ÷ 平均在庫金額


この数値が高いほど、在庫がスムーズに売れていることを示します。業種によって適正値は異なりますが、目安としては以下の通りです:


業種

適正な在庫回転率(年間)

小売業

5~12回

製造業

4~8回

卸売業

6~10回


自社の在庫回転率が業界水準を下回っている場合は、過剰在庫の可能性が高いといえます。

 

2. 滞留在庫の金額

滞留在庫(一定期間以上動きのない在庫)を洗い出し、現金化が難しい在庫を可視化することも重要です。

「3か月以上売れていない」「棚卸資産のうち10%以上が不動在庫」などの場合は、抜本的な在庫管理の見直しが必要です。

 


資金繰りを改善するための在庫圧縮の具体策

 

1. 在庫のABC分析を実施

在庫品目を「よく売れるA群」「普通のB群」「滞留しがちなC群」に分類し、C群の在庫を重点的に削減します。

 

2. 販売予測の精度を高める

過去の販売データをもとに、需要を予測し、「売れる分だけ仕入れる」体制を整えます。

最近ではAI搭載の販売予測ツール(例:在庫最適化ツール「FULL KAITEN」など)も活用されています。

 

3. 滞留在庫の処分

  • 特価セールやアウトレット展開
  • セット販売・抱き合わせ販売
  • BtoB在庫買取サービス(ネット卸・在庫処分サイト等)

滞留在庫を1円でも現金化することで、資金繰りは着実に改善します。

 

4. 委託販売・受注生産への転換

可能であれば、在庫を持たないビジネスモデルへの転換も検討しましょう。特にアパレルや雑貨業などでは、販売での受注生産や、実店舗を持たないドロップシッピングも有効です。

 

 

おわりに:数字を見直せば資金繰りは必ず改善できる

 

資金繰りの改善には、難しい会計テクニックよりも日々の経営数字の見直しが先決です。

  • 売掛金の回収期間は短く
  • 支払サイトは長く
  • 在庫はできる限り圧縮

 

この3点を徹底すれば、キャッシュフローは確実に改善に向かいます。

数字に基づいた戦略的な資金繰り管理は、経営の安定と成長の基盤となります。

 

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