NO228【原材料費高騰時の資金繰り対策とは?】

2025/05/20 10:11:29 - By zaimclinic
資金繰り改善 NO3
資金繰り改善 NO228原材料費高騰時の資金繰り対策とは?

  

 1. はじめに:原材料費の高騰が企業経営に与える影響


2021年以降、世界的なインフレ傾向と供給網の不安定化により、原材料価格が急騰しています。経済産業省が発表した「企業物価指数」によれば、2024年の素材価格は前年比で平均15%以上の上昇を示し、特に鉄鋼(+21.8%)・原油関連製品(+28.3%)・紙パルプ(+14.5%)などの伸びが顕著です。

 

こうした原材料費の高騰は、企業の利益構造だけでなく、資金繰り(キャッシュフロー)にも直接的な悪影響を及ぼしています。

 

【原材料費高騰の背景】

  • 地政学リスクの顕在化:ロシア・ウクライナ紛争、中東情勢の不安定化により、エネルギー・穀物市場が混乱
  • 円安の進行:2022年以降の為替相場で円が1ドル150円台に定着し、輸入原材料のコストが上昇
  • 物流コストの増大:船賃・燃料費・港湾混雑による輸送費増加
  • 脱炭素化による構造的供給不足:石炭・石油・天然ガスなどの投資抑制による供給制限

 

これにより、建設業では鉄骨資材・セメントの調達価格が上昇、飲食業では冷凍食品・食用油・肉類が軒並み値上がりし、製造業では化学素材・電子部品・樹脂などが継続的に値上がりしています。

特に中小企業では、以下のような経営課題が複合的に発生しています。

 

課題

内容

利益率の圧迫

原材料費を価格転嫁できず粗利が減少

資金繰りの逼迫

仕入額の増加で運転資金が枯渇

信用低下

借入の増加により財務指標が悪化

取引リスク増加

支払遅延や仕入先からの条件変更リスク

 

企業は売上の増加やコスト削減だけでなく、資金の流れ=キャッシュフローの最適化を図ることが喫緊の経営課題となっており、本記事ではそのための対策を段階的に解説していきます。

 

 

2. 原材料費高騰による資金繰り悪化のメカニズム

 

原材料価格が上がったとき、「ただ仕入れが高くなるだけ」と考えるのは危険です。実際には、企業の資金繰り、つまりキャッシュイン(収入)とキャッシュアウト(支出)のタイミングとバランスに大きなズレが生じ、深刻な資金ショートリスクを引き起こす可能性があります。

 

(1)仕入原価の上昇による支出増加

例として、毎月200万円分の材料を仕入れて製品を製造していた中小製造業者が、原材料価格の上昇によって仕入コストが240万円に増加した場合、何も対策しなければ年間で480万円の追加支出が発生します。

この差額分をカバーするには、

 

  • 価格転嫁(販売価格の引き上げ)
  • 生産数量の増加
  • 経費削減による粗利確保
  • 金融機関からの追加借入

 

などが必要になりますが、即時に実行できる企業は多くありません。そのため、目先の資金が足りず、他の支払(人件費・税金・家賃など)への影響が出始めます。

 

(2)売上入金の遅れと仕入支払の早期化

 

BtoB取引の多くでは、売上代金の入金が「締め後60日」「翌々月末払い」などの条件である一方、仕入先への支払は「現金取引」「30日以内」が多く、キャッシュフローが常に先出しの構造になっています。

 

項目

支払タイミング

回収タイミング

原材料費

月末締め翌月10日払い

売上:翌々月末入金

外注費

当月末払い

売上:60日後回収

 

この構造がある限り、原材料費の高騰によって「出るお金が早く・入るお金が遅い」という状況が一層厳しくなり、運転資金を多く必要とする結果となります。

 

(3)在庫リスクの増加

 

多くの企業が「今のうちに仕入れておこう」と考え、通常より多くの原材料を購入・保管する傾向がありますが、これが資金繰りを圧迫します。在庫が現金を吸い上げている状態となり、売上が立たない限り資金は戻ってきません。

また、需要変動や仕様変更があった場合、在庫の評価減・廃棄損が発生し、帳簿上の資産価値が下がるリスクもあります。

 

(4)金融機関対応の遅れによる信用低下

資金が足りなくなったとき、慌てて短期借入や高金利のビジネスローンに手を出す企業も少なくありません。これは一時しのぎにはなりますが、返済条件が厳しいため財務バランスを崩す要因になります。

 

さらに、信用保証協会の保証枠を使い切ってしまったり、リスケジュール(返済猶予)を申し出たりすると、金融機関からの格付けが下がり、今後の資金調達に大きな制約がかかる可能性があります。

 

3. 原材料費高騰に対応する具体的な資金繰り対策

原材料費の高騰によって資金繰りが逼迫するなか、中小企業にとって重要なのは「一時しのぎ」ではなく、持続可能な資金繰り体制の確保です。ここでは、実際に取れる戦略的な資金繰り対策をつの視点から詳述します。

 

 

(1)  金融機関との関係強化と資金調達の平時整備

 

早期かつ積極的な金融機関との対話は、資金繰り対策の第一歩です。資金が足りなくなってからではなく、「資金が減り始めたタイミング」で相談することが重要です。

 

具体策:

  • 月次試算表・資金繰り表を定期的に提出し、「財務の見える化」を実施
  • 原材料費の高騰に関する影響試算(コスト増加額・粗利変動)を提示
  • 必要資金の用途と見通しを明確にし、「資金調達計画書」を事前準備
  • 日本政策金融公庫や地方銀行のセーフティネット保証4号・5などの制度融資を活用

 

こうした取り組みは、信用格付けの維持・向上につながり、長期的な借入や条件変更交渉に有利に働きます。

 

(2)売上・仕入のサイト(支払・回収条件)見直し

 

キャッシュフロー改善には、入金を早め・支払いを遅らせる工夫が効果的です。

 

実行可能な交渉ポイント:

  • 売上先(取引先)に対し、「請求締日や支払サイトの短縮」を交渉(例:60日→45日)
  • 仕入先に対し、「支払条件の延長」や「分割払い」を依頼
  • ファクタリングの活用(売掛金の早期資金化。ただし手数料や信頼性に注意)

 

例:

ある製造業者では、主要取引先との交渉により売上サイトを15日短縮。年間で約800万円のキャッシュフロー改善につながったという事例もあります。

 

 

(3)在庫と仕入れの適正化による資金圧縮

 

「買いだめ=コスト削減」と考えがちですが、過剰在庫は資金拘束の元凶です。

 

具体的な対策:

  • ABC分析などを用いた在庫の重要度分類と回転率の見直し
  • 多品種在庫を見直し、高回転品に集中
  • 過去の販売実績と連動した需給予測型の発注モデルに移行
  • サプライヤーと協力して、ジャストインタイム仕入体制を検討

 

結果として、必要最小限の仕入れで運転資金を保全し、資金繰りの安定化に貢献します。

 

 

(4)価格転嫁と付加価値提案の工夫

 

コスト上昇を乗り越えるには、「価格を上げられる力」が必要です。ただし単なる値上げでは顧客離れを招くリスクもあるため、付加価値とセットでの価格見直しが有効です。

 

価格転嫁のポイント:

  • 原材料価格の上昇を「見える化」して顧客に説明
  • 提供価値の再定義(例:「サステナブル素材を使用」「短納期対応」など)
  • セット商品や定額制サービスなど、価格の再設計による収益モデルの見直し

 

中小企業庁も「価格転嫁対策支援事業」を展開しており、交渉スキルやロジック構築の支援を受けることも可能です。

 

 

(5)補助金・助成金・制度融資の活用

 

原材料費の高騰を理由としたコスト増対策に対し、国・自治体はさまざまな支援制度を設けています。

 

活用できる主な制度(2025年時点)

 

制度名

内容

事業再構築補助金

コスト構造を転換するための設備投資支援(最大1億円)

小規模事業者持続化補助金

販路開拓費・業務効率化支援(上限100万円)

セーフティネット保証4号・5号

売上減少時の借入保証制度(信用保証協会)

商工中金の危機対応融資

資金繰り逼迫企業への低利融資制度

 

これらの制度は申請手続きに一定の時間と書類準備が必要ですが、実行できれば資金繰りに大きな安心感をもたらします。顧問税理士や認定支援機関と連携して早めの準備が重要です。

 

 

4. 今後の見通しと持続可能な資金繰り体制の構築へ

 

(1)  原材料費高騰は一過性ではない

 

多くの経営者が期待する「いずれ価格は元に戻る」という見方に対し、専門家の間では「原材料価格の高止まりは構造的な現象」との見方が主流です。背景には次のような中長期トレンドがあります:

 

  • 脱炭素政策による供給制限(化石燃料や非再生資源の開発縮小)
  • 人口増加・途上国の経済成長による需要増
  • 気候変動による農産物の不安定化
  • 物流コストの恒常的上昇(人手不足・エネルギーコスト高)

 

これらの要因により、企業は「高コスト環境が標準である」という前提のもと、恒常的な資金繰り体制の見直しを行う必要があります。

 

 

(2)  資金繰り計画の「見える化」とPDCA管理

 

資金繰りを単なる感覚や経験に頼るのではなく、見える化(可視化)し、PDCA管理することが今後の経営には不可欠です。

 

ポイント:

  • 月次の資金繰り表を必ず作成し、毎月更新・分析
  • 資金残高のシミュレーション(3ヶ月・6ヶ月先)を定期的に行う
  • 複数シナリオ(原材料費20%増、売上5%減など)でのストレステスト

 

ExcelやGoogleスプレッドシートでの運用も可能ですが、近年ではクラウド会計ソフトや資金繰り管理ツール(例:freee、マネーフォワード、boardなど)を活用する企業が増えており、経営の「見える化」に大きく貢献しています。

 

 

(3)財務基盤の強化と「資金余力」の確保

 

資金繰りに強い企業に共通するのは、「いざという時に使える資金の余力」をあらかじめ確保している点です。

 

実践すべき方策:

  • 利用枠だけ確保しておくコミットメントライン契約(銀行と上限付き融資契約を締結)
  • 売上の季節変動を踏まえた資金繰りの季節計画
  • 緊急時に備えた現預金の確保と流動資産比率の改善
  • 自己資本の積み上げと過剰な短期借入の抑制

 

さらに、資金調達の選択肢を広げておく(補助金、民間ファンド、クラウドファンディング等)ことで、調達面の柔軟性も高まります。

 

 

(4)経営者自身のマインドチェンジと情報収集力

 

最後に、資金繰りは数字だけの問題ではなく、経営者の意識と行動に大きく左右されます。特に中小企業では、資金繰りの主導権は経営者自身が握っているケースがほとんどです。

 

今後求められる姿勢:

  • 最新の金融・経済・補助金制度の情報を常に収集
  • 顧問税理士・金融機関・中小企業診断士など外部専門家と連携
  • 自社の財務課題を「見て見ぬふり」せず、数字で語れる経営者
  • 業種を越えた経営者ネットワークへの参加と事例共有

 

中長期的な視点で財務の体質改善を進めることが、一時的な対症療法から脱却する鍵となります。

 

 

まとめと読者へのご案内

原材料費の高騰は今後も続くと予想され、単なるコスト問題ではなく、資金繰り全体の設計を見直す契機と捉えるべきです。中小企業の経営者は、財務基盤を強化し、将来の変化に柔軟に対応できる体制を構築することが求められています。

 

資金繰りの見直しや融資交渉、補助金申請に関する具体的なご相談は、当社・財務クリニック株式会社までお気軽にお問い合わせください。


最新の資金調達情報や制度の動向をふまえた、実践的なアドバイスをご提供いたします。


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