NO202【製造業の資金繰りを強化する「回収・支払・在庫」の見直しポイント】

2025/04/24 10:00:00 - By zaimclinic
資金繰り改善 NO3
資金繰り改善 NO202製造業の資金繰りを強化する「回収・支払・在庫」の見直しポイント

  

製造業の資金繰り改善が急務な理由とは?

製造業の経営において、「資金繰りの管理」は単なる財務部門の仕事ではなく、全社的な経営課題です。製品の完成までに多段階のプロセスを要する製造業では、原材料の調達から販売代金の回収までに長いリードタイムがかかるため、「売上が立っても資金が手元にない」という事態が起こりやすいのです。

 

特に昨今は、以下のような外部要因により、資金繰りの難易度が高まっています:

  • 原材料費の上昇(インフレ・為替影響)
  • 半導体や特殊部品などの供給制約
  • 物流費の高騰や納期の長期化
  • 取引先の経営悪化や支払遅延リスクの増加

これらの要因が重なると、いかに黒字であっても資金ショートのリスクが現実のものになります。特に中小製造業においては、借入や金融機関からの与信が限定的であるため、「資金繰りの自力改善」が生き残りのカギを握ります。

そこで本記事では、資金繰り改善に直結するつの実務領域「売掛金の回収」「仕入支払の見直し」「在庫管理」にフォーカスし、それぞれの改善ポイントを具体的に解説していきます。

 

売掛金回収を早めてキャッシュフロー改善|与信管理・回収条件の見直し方法

 

1. 回収期間(DSO)の把握と短縮

DSODays Sales Outstanding)=(売掛金 ÷ 月間売上)× 30日
この指標は、自社が商品やサービスを提供してから、現金を回収するまでにかかる平均日数を示します。たとえばDSOが60日であれば、売上が現金になるまでに約2ヶ月かかっているということです。

理想的には業界平均と比較しつつ、可能であれば45日以下を目指すことが望ましいとされています。これにより、資金が長期間売掛金として滞留することを防ぎ、事業拡大や緊急支出に備えるキャッシュを確保できます。

改善施策としては以下のようなアプローチがあります:

  • 支払条件の明文化(請求書に明記:例「月末締め翌月末払い」)
  • 早期支払い割引制度(例:10日以内の支払いで2割引)
  • 請求から督促までの業務フローの自動化(請求管理システムの活用)

 

2. 与信管理の再構築

中小製造業では、「長年の付き合いだから」「断ると仕事がなくなるかも」といった理由から、与信管理が形骸化しているケースが少なくありません。これは資金繰りのリスク要因となります。

以下の観点で、取引先別の与信管理ルールを再構築しましょう:

  • 帝国データバンク・東京商工リサーチ等の信用調査レポートの活用
  • 与信限度額と支払遅延歴の内部記録
  • 新規取引先への「現金先払い」や「小額スタート」のルール設定

特に、経営環境が急変する昨今では、1回の見直しでは不十分です。重要取引先に関しては四半期ごと、または年2回程度の再評価をおすすめします。

 

3. 売掛金の資金化:ファクタリングと売掛保証の活用

売掛金を待たずに早期に現金化したい場合には、以下の手法が有効です:

  • ファクタリング(2者間・3者間)
    売掛金をファクタリング会社に売却し、手数料を差し引いた金額を即座に受け取る。信用力が低い企業でも利用可能。
  • 売掛保証(取引信用保険)
    万が一の貸し倒れに備えた保険。経済産業省の補助金対象になる場合もあり。

これらは手数料や審査が必要ですが、緊急時の資金確保や、経営の平準化に有効です。特に季節変動のある業態や、新規取引先との拡大時に活用価値が高まります。

 


 

仕入支払条件の見直しと交渉術|製造業の支払サイト改善の実践法

売掛金の回収に比べて、支払は企業側がある程度コントロールできる領域です。したがって、「支払サイト(=仕入れから実際の支払までの猶予期間)」を戦略的に見直すことで、手元資金の滞留時間を延ばし、資金繰りを安定化させることが可能になります。

ただし、取引先との信頼関係を維持しながら実施する必要があるため、交渉には「準備」と「バランス感覚」が求められます。

 

1. 支払サイトの延長:現状把握とシミュレーション

まず、自社の現在の支払条件を一覧化し、支払先ごとの「支払サイトの平均日数」「年間仕入総額」「期日遵守率」などを把握します。

それに基づき、支払サイトの延長が実現した場合のキャッシュインパクトを試算しましょう。

例:

  • 月間仕入総額:2,000万円
  • 支払サイト:30日→45日へ延長
  • 差分15日分の資金余裕:約1,000万円

このような数値を持っておくことで、具体的かつ納得性のある交渉材料になります。

 

2. 支払条件の見直し交渉:実践的ステップ

支払条件の見直しは、単なる「遅らせてほしい」というお願いではなく、取引関係の継続的強化を目的とした戦略交渉としてアプローチすべきです。

成功する交渉のステップ:

  • STEP 1:情報収集
    • 相手先の資金ニーズや決算情報、支払条件に対する柔軟性の有無を事前に把握。
  • STEP 2:交渉タイミングの見極め
    • 新規契約時、価格改定時、長期契約更新時などは交渉の好機。
  • STEP 3:譲歩案の用意
    • 例)支払サイトを延長する代わりに、年次発注数量の確約、定期発注などを提案。
  • STEP 4:分割導入の提案
    • いきなり全額の支払サイトを延長するのではなく、「半額は45日払い、半額は現行通り」など段階的に導入する形で折衷案を提示。

このような交渉は、営業・購買部門と財務部門が連携して行うことで、実効性が高く、かつ関係性を損なわない対話が可能になります。

 

3. 支払サイクルの再設計:フローの最適化

支払サイトの延長だけでなく、社内の支払処理スケジュールを見直すことも資金繰り改善に有効です。

例えば:

  • 月末締め・翌月20日払い→月末締め・翌月末払い
  • 発注ごとに支払処理→週単位または月単位でまとめて支払
  • 小額取引を都度払い→月次合算支払に変更

こうした調整によって、不要な資金流出を防ぎ、決算上のキャッシュポジションを改善することが可能になります。

また、支払データをデジタル管理(ERPや会計ソフト)することで、将来的な資金繰り予測の精度も向上します。

 

4. サプライヤーとの信頼維持が最優先

支払条件を見直す際、最も重要なのは「取引先の信頼を損なわないこと」です。製造業では、部品や原材料の安定供給が事業継続の生命線であるため、関係悪化による供給リスクの発生は避けなければなりません。

交渉の際は以下の姿勢が求められます:

  • 相手の立場を尊重する丁寧な説明と対話
  • 条件変更の背景(経営環境や金融情勢)を共有
  • 単なる「延長」ではなく、取引拡大や相互利益を視野に入れた提案

これにより、単なる交渉ではなく、パートナーシップ強化の一環として支払条件の見直しが進められます。

 


 

在庫管理の見直しでキャッシュを生む|製造業の在庫削減・適正化の考え方

製造業の資金繰りにおいて、「在庫」は見落とされがちなキャッシュフローの圧迫要因です。在庫は「商品になる前の資金」であり、それが過剰に積み上がるほど、企業は本来使えるはずの資金を倉庫に寝かせていることになります。

在庫管理を改善することは、収益を減らすことなく、現金を生み出す最も即効性の高い手法の一つです。

 

1. 在庫がキャッシュフローを圧迫する仕組み

原材料、仕掛品、製品といった在庫は、バランスシート上「資産」として扱われますが、実際には現金化されるまでに時間とコストがかかるため、経営的には流動性の低い資産です。

特に次のような在庫は資金繰りを圧迫する原因となります:

  • 過剰在庫:必要以上に抱えてしまった材料や製品
  • 滞留在庫:一定期間動きがない在庫(例:3か月以上未使用)
  • 死蔵在庫:使用見込みがなく、棚卸で評価損計上が必要なもの

在庫が多いほど、倉庫費用・保管リスク・廃棄ロスが増加し、見えないコスト負担とキャッシュフロー悪化を引き起こします。

 

2. 在庫適正化のための実践的分析手法

在庫削減を無計画に行うと、生産や販売の機会損失につながるため、まずは現状把握から始めます。

有効な分析手法:

  • 在庫回転率
     =売上原価÷平均在庫高  在庫が年間に何回転しているかを示す指標。目安は「月次回転=年回転」以上。
  • ABC分析
     在庫を「重要度」や「使用頻度」でA・B・Cランクに分類し、重点管理。  

   A:売上・使用頻度の高い主要在庫厳密管理  

   B:中程度定期見直し  

   C:使用頻度が低い最小限化・廃棄も検討

  • 滞留日数の把握
     在庫ごとの平均保管日数を可視化し、90日以上動いていないものは見直し対象とする。


3. 生産と在庫の連動でキャッシュを最適化

在庫管理は、単体の問題ではなく「生産計画」「購買計画」と連動させて初めて効果を発揮します。

具体的には:

  • 需要予測の精度向上:販売データに基づいた発注量調整
  • ロット生産の見直し:少量多品種に対応する柔軟な生産体制の構築
  • JIT(ジャスト・イン・タイム)方式の導入:必要な時に、必要な量だけを仕入・生産する方式。導入には取引先との連携が必須。

また、システム面では在庫管理ソフトやを導入し、リアルタイムでの在庫状況の把握とアラート設定を行うことで、過剰在庫の発生を予防的に管理できます。

 

4. 余剰在庫は「資産」ではなく「損失候補」

最後に、管理されていない余剰在庫は「将来的な損失の原因」になります。<br> 不要な在庫が増えるほど、以下のような間接コストが増加します:

  • 倉庫費用(スペース、人件費)
  • 保管中の劣化・型落ちによる評価損
  • 期末における減損会計処理(在庫評価損の計上)

このため、定期的な在庫棚卸と評価見直しにより、資金化できる在庫清算すべき在庫を明確に切り分ける必要があります。

売却、部材転用、廃棄などの処分ルールも社内に整備しておくと良いでしょう。

 


 

まとめ:3つの見直しでキャッシュフロー体質を強化

本記事では、製造業の資金繰りを改善するための3つの具体的アプローチをご紹介しました:

  • 売掛金の回収改善:DSO短縮、与信強化、ファクタリングの活用
  • 仕入支払の見直し:支払サイトの最適化、交渉スキルの習得
  • 在庫管理の再設計:在庫の適正化、回転率向上、棚卸の徹底

いずれも短期的な効果だけでなく、中長期的な財務体質の強化に直結します。キャッシュフローに関する社内の意識改革とともに、これらの見直しを段階的に進めていくことが、持続可能な経営の鍵となります。

 

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