NO239【利益が出ていても資金が不足するのはなぜ?】

2025/05/31 14:56:10 - By zaimclinic
資金繰り改善 NO3
資金繰り改善 NO239

利益が出ていても資金が不足するのはなぜ?

  

はじめに:黒字倒産という経営リスク

 

「黒字だったはずなのに、なぜ倒産するのか?」

 

これは企業経営に携わる多くの経営者が直面する可能性のある課題です。特に中小企業やスタートアップ企業にとって、資金繰りの失敗は即座に経営危機に直結します。

 

このような現象は「黒字倒産」と呼ばれ、会計上は利益が計上されていても、実際に使える現金(キャッシュ)が不足して支払い不能に陥ることが原因です。

 

黒字倒産の典型例

 

例えば、ある製造業の会社が以下のような状況にあったとします。

  • 年間売上高:1億2,000万円(取引先との長期契約あり)
  • 売上総利益:2,400万円(粗利率20%)
  • 損益計算書では営業利益も黒字で問題なし

 

ところが実際には:

  • 売掛金の回収が90日サイト
  • 材料費や人件費などの固定費が毎月先に発生
  • 設備投資のために多額の支出
  • 銀行への借入金返済が月次で数百万円発生

 

このような状態では、利益が出ているにもかかわらず資金は毎月減少。ある月に大型案件の入金が遅れ、資金繰りが崩壊。結果として、給与支払や税金納付が滞り、倒産という事態に追い込まれます。

 

このように、「利益がある」=「会社は安全」という思い込みは非常に危険です。企業を守るためには、帳簿上の利益ではなく、実際の資金の流れ(キャッシュフロー)を見極める力が求められます。

 

本記事では、次の3つのポイントに焦点を当てて解説します。

  1. 利益と資金(キャッシュ)の違い
  2. 資金不足に陥る典型的な要因
  3. 資金繰り改善に向けた具体的な対策

 

 

利益と資金繰りの違いを理解する:帳簿と現実のギャップ

 

企業の財務諸表には複数の種類があり、それぞれが異なる目的で作成されます。「損益計算書(PL)」と「資金繰り表」は、特に混同しやすい財務書類ですが、この2つの違いを正確に理解することは、企業経営の健全性を保つうえで不可欠です。

 

損益計算書とは何か?

 

損益計算書とは、ある一定期間(通常は1年間)における「収益と費用の差額=利益」を示すものです。売上や原価、販管費などを元に計算されます。

 

ここで注意すべき点は、損益計算書では「発生主義会計」が採用されていることです。これは、現金の受け取り・支払いのタイミングではなく、「売上や費用が発生したタイミング」で数値が計上されるという会計ルールです。

 

つまり:

  • 売上を計上していても、まだ入金されていない(売掛金)
  • 費用として計上されていても、まだ支払っていない(未払金)

 

こうしたケースが一般的です。

 

キャッシュフローとは何か?

 

キャッシュフローは、実際に現金がいつ、どこから入り、どこへ出ていったかを記録するものです。資金の入出金にフォーカスしており、以下の3つの区分で管理されます。

  1. 営業キャッシュフロー:本業による現金収支(最も重要)
  2. 投資キャッシュフロー:設備投資・資産売買など
  3. 財務キャッシュフロー:借入・返済・配当など

 

損益計算書では見えない現金の動きを把握できるため、企業の資金繰りや支払い能力を判断する上で非常に有効な指標です。

 

利益とキャッシュの具体的な違い

 

比較項目

利益(損益計算書)

キャッシュ(資金繰り)

視点

発生ベース

現金ベース

売上

請求書を発行した時点で計上

入金された時点で反映

費用(経費など)

請求書を受け取った時点

実際に支払った時点で反映

減価償却費

計上される

キャッシュには影響なし

借入金の元本返済

計上されない

キャッシュフローに反映

資金繰りへの影響

間接的

直接的

 

中小企業が陥りやすい勘違い

 

多くの中小企業では、「決算で黒字だから大丈夫」と考えてしまう傾向があります。しかし、売上が売掛金として計上されている場合、実際の入金は13ヶ月後になることも珍しくありません。

 

その間に給与や家賃、借入返済、税金などの支払いが集中すると、黒字であっても資金がショートしてしまう危険性があります。実際に黒字倒産した企業の多くが、このキャッシュフローの見落としを原因として挙げています。

 

資金が不足する主な理由:黒字でも資金繰りが悪化する5つの落とし穴

 

会計上の利益が出ているのに、現実には資金が足りないこの矛盾を生む背景には、いくつかの明確な原因があります。資金不足の原因を正確に理解し、予防策を講じることが中小企業の資金繰り対策の第一歩です。

 

ここでは、企業が実際に直面しやすい5つの典型的な資金不足の要因を取り上げ、それぞれを深掘りしていきます。

 

 

売掛金の回収遅延:利益はあっても現金がない原因の代表格

 

中小企業の資金繰りを圧迫する最大の要因が、「売掛金の回収サイト(期間)が長い」ことです。売上計上は完了していても、実際の入金が1〜3ヶ月先というケースは珍しくありません。

 

具体例:

  • 3月に1,000万円の売上を計上(得意先に納品)
  • 入金は6月末(回収サイト90日)
  • 一方で、材料費・外注費・人件費などは3月末までに支払い済み

 

このように、キャッシュアウトが先行し、キャッシュインが後になる場合、利益が出ていても資金ショートを起こす可能性が高まります。

 

対策キーワード:

  • 請求業務の迅速化
  • 入金サイト短縮の交渉
  • 売掛債権のファクタリング活用

 

 

在庫の増加:キャッシュが倉庫に眠っている状態

 

過剰在庫は、資金を「商品」という形で固定化させてしまいます。つまり、現金がモノに変わってしまっており、販売されるまで資金として使えない状態です。

 

ありがちな失敗:

  • 「まとめて仕入れた方が安い」との判断で大量発注
  • 需要予測を誤って在庫が滞留
  • 流動性の低い商品が棚に残ってしまう

 

在庫は帳簿上「資産」ですが、現金化されなければ経営資源としての機能を果たしません。これは「在庫=準キャッシュではない」ということを意味します。

 

対策キーワード:

  • 在庫回転率の定期的な見直し
  • 需要予測の精度向上
  • デッドストックの早期処分

 

 

借入金の元本返済:損益に影響しない見えないキャッシュアウト

 

損益計算書には計上されないけれど、資金繰りに直結する支出の代表が「借入金の元本返済」です。元本返済は費用ではないため、利益に影響を与えません。しかし、実際には現金が毎月確実に出ていく項目です。

 

例:

  • 月間営業利益:100万円
  • 月間借入元本返済額:150万円

 →実質的に資金繰りはマイナス50万円


返済スケジュールを軽視すると、キャッシュフローは圧迫され続け、結果的に運転資金が枯渇します。

 

対策キーワード:

  • 借入条件の見直し(返済猶予交渉)
  • 長期借入への借り換え
  • 資金繰り表への返済計画の反映

 

 

設備投資や固定資産の購入:大きな支出が一気に資金を消耗

 

成長戦略の一環として、新たな設備や不動産を取得することがあります。しかし、これらの支出は利益ではなく資金に直接影響を与えます。特に自己資金で購入する場合、一時的に大きなキャッシュアウトが発生します。

 

また、減価償却は損益計算書で数年にわたって分割計上されますが、支出自体は一括で現金が出ていきます。

 

対策キーワード:

  • リース活用による初期投資削減
  • 設備投資前の資金シミュレーション
  • 投資回収期間の設定とモニタリング

 

 

税金・社会保険料の納付:突然の高額支払いに備えられていない

 

決算が黒字の場合、法人税・住民税・事業税など、翌期に高額な税金の支払いが発生します。また、社会保険料や源泉所得税などの法定費用は、毎月定期的に支払いが求められます。

 

これらは「利益」に対して発生するコストであり、手元資金の管理が甘いと、納税資金が足りなくなるリスクが高まります。

 

よくある失敗:

  • 黒字=使っていいお金と誤解し、納税分まで資金を使ってしまう
  • 決算後に想定以上の税額が発生し、慌てて借入や延滞処理へ

 

対策キーワード:

  • 決算予測と税金の事前積立
  • 会計ソフトでの納税額シミュレーション
  • 税理士との密な連携による納税対策

 

 

まとめ:資金繰り悪化は複合要因で起きる

 

資金が不足する原因は単独で起こるのではなく、いくつかの要素が同時に発生することで危機を招くケースがほとんどです。

 

  • 売掛金の回収が遅れている
  • 同時に借入金の返済が続いている
  • 在庫も増えてしまっている
  • さらに設備投資も行っていた
  • そして税金の納期が迫っている

 

このような状況では、資金ショートが一気に現実のものとなります。つまり、資金繰りはではなくで捉える必要があるのです。

 

 

資金不足を防ぐための実践的対策:キャッシュを守るために今できること

 

黒字倒産を防ぎ、企業経営を安定させるためには、単に「儲ける」こと以上に「キャッシュを管理する力」が求められます。ここでは、資金繰り改善を実現するための4つの実践的な対策を具体的にご紹介します。

 

 

キャッシュフロー計画を「見える化」する

 

資金繰りの悪化は、しばしば「予測できていなかった」ことに起因します。したがって、資金の流れを可視化することが最も重要な第一歩です。

 

実践ポイント:

  • 月単位の資金繰り表を作成し、入出金の予定を管理する
  • 売掛金の回収予定・支払予定・借入返済・納税時期などを時系列で一覧に
  • 「資金残高がマイナスになるタイミング」を事前に把握する

 

市販の会計ソフトやテンプレートを活用して、簡易なシミュレーションを始めることも可能です。重要なのは、資金の流れを数字で把握し、行動に落とし込むことです。

 

 

回収・支払サイトを見直す

 

キャッシュの滞留を防ぐには、入金は早く、支払いはできる限り遅くという基本を徹底することが必要です。これを「資金サイトの改善」と呼び、資金繰り改善において効果の大きい手法のひとつです。

 

実践ポイント:

  • 取引先と交渉し、回収サイト(売掛金)を短縮する
  • 支払サイト(買掛金)を長期化できるよう、仕入先と交渉する
  • 前受金制度(先払い)やデポジット契約を活用する

 

特に取引歴が長いパートナー企業とは、信頼関係をベースにした交渉が可能です。無理のない範囲で、資金の流れを改善できる余地を見つけましょう。

 

 

資金調達の選択肢を広げておく

 

資金が不足してから慌てて借入申請を行うのは避けたい状況です。キャッシュに余裕があるうちに、融資枠の確保や資金調達手段を整えておくことが、安全な経営を支える鍵です。

 

実践ポイント:

  • 金融機関と定期的にコミュニケーションを取り、信用を蓄積する
  • 信用保証協会付き融資、制度融資、政府系金融機関(日本政策金融公庫)などを活用
  • ファクタリング、リース、クラウドファンディングなど新たな資金調達手段も検討

 

特に中小企業にとっては、財務状況が良好な時こそ、将来の資金繰り悪化への備えを講じるチャンスです。

 

 

専門家との連携を日常化する

 

資金繰りの悩みは、税理士や財務コンサルタントなど外部の専門家の知見を借りることで、より早期に解決できることが多くあります。

 

実践ポイント:

  • 月次試算表の分析とともに、資金繰り状況の報告・相談を行う
  • 税金・社会保険料の支払い計画を専門家と共有し、予測管理を強化
  • 必要に応じて、補助金や助成金制度の活用も相談する

 

中小企業の多くが「社長の勘」に頼りすぎて資金管理を後回しにしています。第三者の冷静な目線を経営に取り入れることで、客観的かつ持続可能な資金戦略を立てることが可能になります。

 

 

まとめ:利益だけでなく現金の動きに目を向けよう

 

「利益が出ているのにお金がない」という状態は、決して異常でも特殊なことでもありません。むしろ、多くの中小企業が共通して抱える経営課題です。

 

資金不足は、早期に手を打てば防げる問題です。大切なのは、以下の3つの視点です:

  • 数字を帳簿だけでなく現金の観点でも見る
  • 資金繰り表を常に更新し、予測と対策をセットで行う
  • 必要なときに資金を確保できるよう、信用と準備を重ねておく

 

経営において最も重要なのは、「黒字よりもキャッシュ」であることを今一度認識し、日々の資金管理に落とし込んでいくことです。

 

 

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