
はじめに:なぜ法人に節税対策が重要なのか
企業経営において「利益を上げること」は当然の目的ですが、実際に手元に残る利益を最大化するためには、税金のコントロール=節税対策が不可欠です。とくに中小企業では、限られた資金をいかに効率よく運用し、税負担を抑えるかが、企業の成長スピードや継続性に大きく影響します。
日本の法人税は、国税(法人税)、地方税(法人住民税・法人事業税)などを含めた実効税率で約30%前後に達します。たとえば、年間1,000万円の利益を計上しても、300万円近くを税金として納めなければなりません。これが2年、3年と積み重なると、大きな金額になります。
一方、合法的な節税対策(タックスプランニング)を講じることで、これらの税負担を抑えつつ、経営資源を再投資に回すことができます。節税は「コストカット」ではなく、未来への資金準備であり、経営戦略の一部として捉えるべきでしょう。
以下では、実務に直結しやすい法人向け節税対策を10個厳選し、回に分けて詳しく解説します。まずは取り入れやすいつの対策から見ていきましょう。
法人が取り入れやすい節税対策(前半5選)
1. 小規模企業共済への加入
経営者の退職金準備と節税を同時に実現できる制度
中小企業の経営者や役員が対象で、月1,000円〜7万円までの掛金を自由に設定でき、全額を所得控除として扱えます。個人事業主時代の掛金も含めて通算可能で、長期的に積み立てることで退職時の退職金や事業承継資金としても活用可能です。
さらに、任意解約や貸付制度もあるため、資金繰りが厳しいときの一時的な資金調達手段としても柔軟に使えます。節税+資産形成+リスクヘッジの一石三鳥と言える手法です。
✅ ポイント
節税しながら老後の備えや事業リスクへの対応も可能。法人経費としてはなく、個人側の節税になるため、役員報酬の戦略と合わせて検討を。
2. 経営セーフティ共済(中小企業倒産防止共済)
取引先の倒産リスクに備えながら、損金算入で節税
中小企業基盤整備機構が提供する制度で、月額5,000円〜20万円までの掛金が、法人の損金として全額計上可能です。最大800万円まで積立可能で、解約時には原則全額返戻されるため、事実上「内部留保を税金先送りしながら積み立てられる」制度です。
取引先が倒産した際の共済金貸付も受けられ、万一の事業継続リスクにも備えられるという点で、税制上も実務上も非常に優れた制度です。
✅ ポイント
解約手当金も一定期間を超えれば100%近く戻るため、利益圧縮と資金準備を同時に実現できる優秀な節税策。
3. 決算賞与の支給による利益調整
期末に賞与を支給して法人税の負担を軽減
「決算賞与」とは、年度末に利益が想定よりも多くなった場合、従業員に賞与を支給して利益を圧縮する手法です。要件を満たせば、未払であっても当期に損金計上できます。要件は以下のとおり:
- 決算期末までに支給額・対象者・支給日を決定していること
- 決算日から1ヶ月以内に実際に支給すること
- 支給額を全額損金算入できること
従業員の士気向上にもつながるため、モチベーションアップと節税の両立が可能です。
✅ ポイント
「未払い計上でも損金算入できる」のがミソ。帳簿の記録と実行タイミングを税理士と綿密に調整することが重要。
4. 中小企業投資促進税制の活用
設備投資に対する税額控除または特別償却が可能
一定の要件を満たす中小企業が、生産性向上を目的に機械や設備を導入した場合、7%の税額控除または30%の特別償却が選択できます。関連設備や省エネ機器など、対象設備は多岐にわたります。
この制度は期限付きのケースが多いため、適用時期や設備の要件を確認しつつ、税務署や顧問税理士と連携して進めることがポイントです。
✅ ポイント
「投資=キャッシュアウト」だが、税務面で即時効果が出る。最新の制度情報は毎年確認する必要あり。
5. 役員報酬の戦略的設計
個人と法人の両面で税負担を最適化する鍵
役員報酬は「定期同額給与」であれば、法人の損金に算入可能です。報酬額を適切に設定することで、法人税と所得税のバランスを調整し、全体の税負担を抑えることが可能です。
さらに、年収850万円を超える場合は所得税の累進課税が急増するため、報酬額の分散(役員の複数人化)や退職金制度との併用も検討の余地があります。
✅ ポイント
高すぎても低すぎてもNG。法人と個人の最適な「手取り最大化バランス」を税理士と一緒にシミュレーションすべし。
法人が取り入れやすい節税対策(後半5選)
6. 福利厚生費の活用で従業員満足と節税を両立
従業員のモチベーション向上と節税効果を両立させる手段
福利厚生費は、一定の条件を満たすことで全額損金として計上可能です。具体的には、以下のような支出が対象になります:
- 社員旅行(一定の金額と日数の範囲内)
- 食事補助(人あたり月3,500円以内で半額以上の自己負担があれば非課税)
- 健康診断の費用
- 慶弔見舞金やレクリエーション費用
これらを適切に設計・活用することで、税金を抑えながら従業員の満足度を高めることが可能です。ただし、役員だけを対象とした場合などは損金に認められないケースがあるため注意が必要です。
✅ ポイント
支出の記録は領収書だけでなく、社内規定や参加名簿などの「裏付け資料」があると税務調査でも安心です。
7. 旅費規程の整備による非課税手当の支給
出張手当を非課税で支給し、実質的な節税を図る方法
旅費交通費は法人経費として一般的ですが、「出張手当」という形で非課税のまま役員・従業員に支給可能です。これにより、会社にとっては損金計上、受け取る側にとっては課税されない収入という税務上のメリットが二重に生まれます。
この節税効果を得るには、「旅費規程」という社内ルールを明文化しておくことが必須です。たとえば、「日当〇円」「宿泊費は実費支給」「交通費は実費+手当」などを定めておけば、税務署からの指摘を避けられます。
✅ ポイント
規程がないと、すべて給与として課税されるリスク。整備したうえで、継続的に活用するのがベスト。
8. 借入金による節税(レバレッジ効果の活用)
利息支払は損金扱い。自己資金とのバランスを最適化
法人が設備投資や事業拡大のために金融機関から資金を借り入れた場合、その利息部分は原則として損金算入可能です。つまり、事業収益が出たとしても、利息支払によって法人所得が減少し、その分法人税が軽減されます。
たとえば、自己資金で1,000万円の設備投資を行うよりも、借入で実行してその利息を損金とする方がキャッシュフロー的にも税務的にも有利になる場合があります。もちろん、過剰な借入は財務健全性を損なうため、適切な資金計画が前提です。
✅ ポイント
金利水準が低い今だからこそ、借入金をうまく活用して「節税+成長投資」を両立させる好機です。
9. 事業承継対策としての自社株評価引き下げ
将来の相続税・贈与税負担を軽減しつつ法人税対策に繋げる
自社株の評価が高くなると、事業承継時に相続税・贈与税が重くのしかかります。役員報酬の引き上げや配当金の見直し、純資産の圧縮(退職金支給や設備投資)を行うことで、株式の評価額を引き下げることが可能です。
この結果、法人税の負担も軽減され、さらに将来の相続税対策としても有効です。とくに株式の評価方法(原則方式or類似業種比準方式など)によっても節税の可否が変わるため、税理士と連携して早めの検討が推奨されます。
✅ ポイント
自社株の評価対策は「法人税・相続税・贈与税」の三面に効く。早期からの計画がカギ。
10. 役員退職金の戦略的支給
最大で法人税+所得税の両面で大きな節税効果が期待できる
役員が退任する際に支給される役員退職慰労金は、法人にとっては損金扱い、個人にとっては「退職所得」として課税されます。退職所得控除や1/2課税の適用があるため、所得税を大幅に軽減できます。
退職金の金額は「最終報酬月額 × 在任年数 × 功績倍率(一般的に2〜3)」を基準に計算され、適正と認められた場合は税務署から否認されにくいとされています。事前に就業規則や退職金規程を整備しておくことが必須条件です。
✅ ポイント
節税額が非常に大きくなる可能性がある反面、過大な金額は否認されるリスクも。慎重な設計が求められる。
節税対策を成功させるためのポイントと注意点
ここまでご紹介した節税対策は、すべて法律に則った「合法的な節税」=タックスプランニングです。しかし、いくら有効な手法でも、実務上の管理や運用が不適切であると、税務否認や追徴課税の対象となるリスクがあります。節税を「成功させるために」欠かせないつの視点を以下にご紹介します。
1. 「節税」と「脱税」の違いを正しく理解する
節税とは、法律の範囲内で税負担を軽減する行為であり、脱税とは意図的に申告をしない、売上を隠す、架空経費を計上するなど違法行為です。たとえ節税のつもりでも、運用がずさんで税務署に否認されれば、それは結果的に「脱税」とみなされる恐れがあります。
たとえば:
- 社員旅行で一部の役員だけが参加し、経費処理→否認リスクあり
- 旅費規程が整備されていないのに出張手当を支給→否認リスクあり
- 福利厚生費として役員専用の接待費を処理→認められない
✅ 対策
**「全社的に公平」「明文化された社内ルール」「証拠書類の保存」の3点セットを意識し、節税と違法行為の線引きを明確に。
2. 顧問税理士との連携が「節税効果」を最大化する
多くの中小企業では、日々の税務処理を税理士に依頼していますが、節税対策も“提案ベース”で進めてもらえる関係性を築くことがカギです。ただの帳簿処理の代行ではなく、節税戦略を一緒に設計する“パートナー”としての税理士活用が成果に直結します。
理想的なのは:
- 決算の3〜4ヶ月前からの「利益予測」と節税対策のシミュレーション
- 役員報酬や賞与設計など「法人・個人のトータル最適化」の相談
- 税制改正への柔軟な対応提案
✅ 対策
**「事前相談」「年間計画」「信頼関係」の3本柱を意識して、単なる顧問契約から「経営支援型パートナー関係」へ。
3. 書類・証拠の整備が最大の防御策になる
税務調査では、帳簿や書類の不備が最も多くの否認原因になります。節税を実行する際は、支出の目的や対象、金額の正当性を証明できる書類をきちんと整備しておくことが大前提です。
特に重要なのは以下のような書類です:
- 旅費規程・退職金規程・社内福利厚生規程などの社内ルール文書
- 参加者名簿・議事録・打ち合わせ記録などの実施証明
- レシートや領収書だけでなく、支出の背景説明資料
✅ 対策
デジタル化も活用しつつ、「いつ・誰が・なぜ・どのように使ったか」を説明できる状態を保つことが税務リスク回避の鉄則です。
おわりに:節税は「攻めの経営戦略」
節税対策は単なる支出の削減ではありません。キャッシュフローの健全化、従業員満足の向上、将来の投資余力の確保など、企業の未来を見据えた「攻めの戦略」として位置づけるべきです。
今回ご紹介した10の節税方法は、どれも中小企業でも取り組みやすいものばかりです。とはいえ、自社の業種・規模・財務状況に応じて「何を、いつ、どこまで実行するか」の判断が非常に重要です。
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