NO244【事業承継時に気をつけたい税務と資金計画】

2025/06/05 9:58:16 - By zaimclinic
資金繰り改善 NO3
資金繰り改善 NO244

事業承継時に気をつけたい税務と資金計画

  

はじめに:なぜ今、事業承継が重要なのか?

 

日本全国で、中小企業経営者の平均年齢は年々上昇しており、2025年には約245万人の中小企業経営者が70歳を超えると見込まれています。そのうち、半数以上が後継者未定という深刻な実態があり、今後10年で多くの企業が「黒字廃業」に追い込まれるリスクを抱えています。

 

こうした背景の中で注目されているのが「事業承継」です。これは単に後継者を決めるだけではなく、会社の資産・負債・経営権・理念を次世代に円滑に引き継ぐプロセスを意味します。

 

特に注意すべき点は、承継時に発生する「税務の問題」と「資金の確保」です。税金面では、非上場株式の高額評価による相続税・贈与税の負担が重くのしかかり、資金面では、後継者が納税資金を用意できずに経営に支障をきたすことがあります。

 

したがって、事業承継は「引き継ぎ」ではなく「戦略」です。税務対策・資金計画・組織体制整備を含めて、数年単位で準備を進めるべき経営課題であり、専門家のサポートが成功の鍵を握ります。

 


 

税務上の注意点:相続税・贈与税・譲渡所得税の基礎知識

事業承継の方法によって、発生する税金の種類とその対策は大きく異なります。特に中小企業の経営者が保有する**非上場株式(自社株)**は、税務評価が難しく、誤った対応をすると数千万円単位の税負担が発生することもあります。

 

① 相続税:経営者の死亡に伴う資産移転時に発生

相続税は、経営者が亡くなった際に、遺族が相続した財産の合計額に対して課される税金です。ここで問題になるのが、非上場株式の評価です。評価額は以下の3つの方法を基に決定されます:

  • 純資産価額方式(会社の帳簿純資産をもとに評価)
  • 類似業種比準方式(上場企業の株価や配当を基に換算)
  • 配当還元方式(小規模株主向けの簡易評価)


一般的には純資産価額方式が用いられることが多く、特に不動産を多く保有している企業は評価額が跳ね上がるため、結果として相続税が高額になります。


例:

ある中小企業が不動産を多く保有し、経営者が80%の株式を保有していたケースでは、評価額が2億円を超え、相続税だけで約6,000万円が課税されたという事例があります。後継者がこれを現金で支払えず、自社株の一部を第三者に売却して資金を捻出する羽目になりました。

 

② 贈与税:生前に株式を移転する場合

贈与税は、経営者が生存中に資産を後継者に贈与する際にかかる税です。年間110万円までは非課税ですが、それを超える金額には累進税率(最大55%)で課税されます。ただし以下の制度を活用することで、税負担を抑えることが可能です。

  • 相続時精算課税制度(最大2,500万円まで非課税)
  • 事業承継税制の贈与税特例(一定条件を満たすことで納税猶予)


これらの制度を活用するには、都道府県への事前の申請や、会社の雇用維持、後継者の継続的な経営が必要です。要件を満たさなければ猶予された税が全額課税されるため、慎重な対応が必要です。

 

③ 譲渡所得税:株式を有償で譲渡する場合

株式を後継者に「売却」する場合は、「譲渡所得税」が発生します。譲渡所得とは、売却価格から取得費・譲渡費用を差し引いた利益に対する課税です。税率は**20.315%(所得税15%+住民税5%+復興特別所得税0.315%)**ですが、株式の評価方法に争いが生じやすく、税務調査で指摘を受けるケースもあります。

この手法は、贈与や相続よりも資金移動の自由度が高く、M&Aの一環として使われることもありますが、税務面の慎重な準備が不可欠です。

 

④ 事業承継税制(特例措置)の最大活用

「事業承継税制」は、中小企業の円滑な承継を目的に、相続税・贈与税の納税を猶予・免除する制度です。2018年の改正により、**特例措置(2027年12月末までの期間限定)**が導入され、以下のような恩恵を受けられます。

  • 相続税・贈与税の100%納税猶予
  • 非上場株式の全株式が対象
  • 雇用維持要件の緩和
  • 贈与者・受贈者の世代を問わず適用可能

 

ただし、制度の適用には**都道府県知事への「認定申請」や「5年後の報告義務」**など、煩雑な手続きが必要です。失敗すると多額の税金が課税されるため、制度に精通した専門家の支援が不可欠です。

 

資金計画の立て方:承継に伴うコストと資金調達方法

 

事業承継においては、「税務対策」と並んで極めて重要なのが資金計画の立案です。相続税や贈与税の納税資金、株式の買い取り費用、M&Aにかかるコストなど、承継に伴う支出は数百万円から数千万円に及ぶ場合もあります。これらの費用を準備できないと、円滑な承継が頓挫する恐れがあります。

 

① 事業承継に必要な資金の種類

承継時に発生しやすい主な費用は以下の通りです:

  • 相続税・贈与税の納税資金
    → 自社株評価が高額の場合、1億円以上の納税が必要になるケースもあります。
  • 自社株の買取資金
    → 相続人が複数いる場合や、相続放棄した親族から後継者が株式を買い取る際に必要。
  • 専門家報酬(税理士、弁護士、財務アドバイザー等)
    → 税務評価・事業承継計画・契約書作成等にかかる実務支援費用。
  • M&A実行時のアドバイザリー費用や仲介手数料
    → 外部企業に売却または統合を行う際の付帯費用。

 

② 納税資金の確保方法:現金準備と納税猶予

相続税や贈与税は、原則として現金一括払いが求められます。そのため、事前に納税資金の調達方法を検討しておくことが必要です。

 

主な対策:

  • 保険の活用(経営者に終身保険をかけて納税原資を確保)
  • 金融機関からの事業承継向け融資
  • 事業承継税制による納税猶予

 

特に事業承継税制の適用が可能な場合は、税負担を大幅に軽減できるため、制度活用を前提とした資金計画を立てるのが有効です。ただし、万が一、制度要件を外れると、猶予された税が一括課税されるため、保険などのリスクヘッジも併用すべきです。

 

③ 自社株の買い取り資金:後継者の資金負担をどう軽減するか

後継者が親族外、あるいは兄弟姉妹が複数いる場合、承継後に自社株を一括して買い取る必要があるケースがあります。これに備えて、以下の方法が考えられます:

  • 社内留保を活用した自社株買い取り
  • 会社から後継者への役員貸付制度の活用
  • 買収資金を目的とした借入(事業承継融資)

 

また、親族間で贈与や相続によって分散した株式をまとめる際には、株主間契約や株式譲渡制限の整備も重要です。

 

④ 承継に向けた資金調達手段の選択肢

近年、事業承継に特化した融資制度や補助金が充実してきています。これらを組み合わせることで、実質的な資金負担を抑えることが可能です。

  • 日本政策金融公庫の「事業承継・引継ぎ支援資金」
    → 自社株買取や設備投資など、事業承継に関する費用を対象とした低利融資。
  • 中小企業庁の「事業承継・引継ぎ補助金」
    → 専門家活用や事業再編にかかる経費の一部を補助(最大600万円程度)
  • 地域金融機関の事業承継ローン
    → 地元金融機関が地域企業の承継を支援するための専用融資。

さらに、M&Aによる第三者承継を検討する場合は、投資ファンドや買収企業からの資金流入が新たな資金源となるため、事業の成長と資金確保を同時に実現できます。

 

⑤ 財務戦略としての資金計画

事業承継における資金対策は、単なるコスト管理ではなく、「財務戦略の一環」として捉えるべきです。具体的には:

  • 5~10年のキャッシュフロー計画の策定
  • 株式評価の見直しと利益の圧縮計画
  • 将来的な出口(M&AやIPO)の想定を含めた資本政策

これらを踏まえ、後継者が安心して経営を引き継げる環境を整えることが、企業の持続的成長に直結します。

 

円滑な承継のために:専門家活用と早期対策のすすめ

 

事業承継は、経営者の想いや経験を次世代に引き継ぐ「企業の未来を託す経営判断」であり、税務や財務だけでなく、人的・組織的・心理的側面も含めた複雑なプロセスです。円滑な承継を実現するためには、何よりも「早期対策」と「外部専門家の活用」が不可欠です。

 

① 承継の失敗例に学ぶ「先送り」のリスク

実際に、承継を後回しにしたことによって発生した問題としては以下のような事例があります:

  • 経営者の急逝により、遺産分割協議が長期化し、業務が停滞
  • 株式が相続人に分散し、経営権が不安定化
  • 遺族間の意見対立により、会社売却を余儀なくされる
  • 納税資金の確保ができず、不本意な資産売却

 

こうした事態は、**「事前の計画」と「プロの助言」**があれば、回避できた可能性が高いといえます。

 

② 専門家の役割:信頼できる外部パートナーを持つこと

事業承継には、次のような複数の専門家が関わります。経営者一人の判断で対応するには限界があり、それぞれの専門性を活用することが成功のカギを握ります。

  • 税理士・公認会計士
    → 株式評価、相続税・贈与税対策、税務申告
  • 弁護士
    → 遺言書作成、株主間契約、相続トラブル予防
  • 中小企業診断士・財務アドバイザー
    → 事業承継計画の策定、経営体制の再構築
  • 金融機関・M&A仲介業者
    → 資金調達、第三者承継の実行支援

 

専門家をチームとして組織し、統一された方針のもとで事業承継を進める体制を整えることで、各領域のリスクを最小限に抑えられます。

 

③ 早期に始めるべき取り組みとは

理想的には、事業承継は5〜10年前から準備を開始することが望ましいとされています。以下は、承継準備の初期段階で取り組むべき事項です:

  • 後継者の明確化と育成プランの策定
  • 自社株式の現状評価と税務分析
  • 社内外ステークホルダーへの周知と合意形成
  • 承継スケジュールの作成と実行管理

 

さらに、経営理念の伝承や、暗黙知(経営ノウハウ)の形式知化など、ソフト面での引き継ぎも忘れてはなりません。後継者と一緒に経営課題を共有し、一定期間「共同経営」のような形を取ることで、移行をスムーズに行えます。

 

④ まとめ:未来志向の事業承継を

事業承継は単なる「世代交代」ではなく、「次の成長を見据えた戦略」です。税金対策や資金確保はもちろん重要ですが、根底にあるのは「事業の価値をいかに守り、未来につなぐか」というビジョンです。

早期に着手し、信頼できる専門家とともに計画的に進めることで、経営の安定・雇用の維持・企業価値の向上を同時に実現することが可能になります。

 


 

おわりに:事業承継のご相談はお早めに

 

事業承継には専門知識と多角的な視点が求められます。当社では、税務・財務・経営戦略の専門家が連携し、円滑な承継をサポートいたします。ご自身の事業に合った最適な承継プランを一緒に考えませんか?

 

詳細なご相談は当社までお気軽にお問い合わせください。

未来の経営をつなぐ第一歩を、今、踏み出しましょう。

 


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