NO252【優先的地位の濫用とは】

2025/07/05 14:02:53 - By zaimclinic
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資金繰り改善 NO252

【優先的地位の乱用とは】

優越的地位の濫用とは?金融機関との取引で注意すべきポイント


はじめに:金融機関との取引で気をつけたい見えないリスク

企業経営において、金融機関は資金繰りの要として、また経営の信頼性を支えるパートナーとして、欠かせない存在です。融資を受けたり、決済口座を利用したり、資金を運用したりと、その関係性は極めて密接であり、特に中小企業や個人事業主にとっては、経営基盤を左右する重要な存在です。

しかしながら、こうした金融機関との関係が、必ずしも公平・対等であるとは限りません。金融機関が持つ「資金を供給する」という立場は、企業に対して優越的な地位を形成する可能性があります。そして、その地位を背景に不当な要求や取引条件を押し付ける行為は、「優越的地位の濫用」として法律上問題となります。

とくに近年では、金融機関が収益確保のために様々な手法で預かり資産(投資信託や保険商品など)を販売したり、取引量の増加を図ったりする傾向が強まっており、融資を受けている企業側がそれに巻き込まれる事例が増えています。

この記事では、「優越的地位の濫用」とは何かを明確にし、実際に中小企業の現場で起きている具体的な事例を交えて解説します。取引先である金融機関に対しても、必要以上に萎縮せず、対等な立場で交渉できるよう、知識を身につけることが必要不可欠です。

 

 

優越的地位の濫用とは?独占禁止法との関係と具体的な行為例

法律上の位置づけ:独占禁止法と「不公正な取引方法」

「優越的地位の濫用」は、正式には独占禁止法第条が禁止する「不公正な取引方法」の一つに位置づけられています。具体的には、公正取引委員会が定めた「一般指定」の第号に該当し、以下のように記されています:

「取引上優越した地位にある者が、自己の利益のために、正常な商慣習に照らして不当に不利益を与える行為をすること」

つまり、優越的な立場にある者が、その影響力を使って相手に一方的な不利益を与える行為が該当します。これは、独占や談合のような市場支配とは異なり、個別の取引関係において発生する「力のバランスの不平等」が問題とされるのです。

金融機関と企業との関係においては、資金の提供者である金融機関が当然のように強い立場にあります。このため、その地位を利用して以下のような行為を行うと、違反となる可能性があります。

 

 

金融機関による代表的な違反行為(つの例)

1. 不確実な融資を確実と思わせる発言

たとえば、「融資は通る見込みですから、安心してください」といった発言をされ、そのつもりで事業計画や仕入れを進めた結果、実際には融資が下りなかった。このように、将来の不確実な事項について断定的に述べ、相手に誤認させる行為は問題です。


2. リスクの説明不足やミスリード

例えば「この条件で借りれば金利は変わらない」と言われたが、実際には特約条件に違約金の設定がある、あるいは途中解約で損失が発生する、といったことを十分に説明しないまま契約させる行為です。取引先の知識や経験に応じた説明義務が果たされていない場合、違反の可能性があります。


3. 定期預金の強制

「融資を実行するためには、一部を定期預金として預けていただく必要があります」と言われるケース。これは実質的に融資金の一部を拘束するものであり、自由に使えない資金が発生するという点で、金融機関側の都合による不当な拘束とされます。


4. 金融商品の抱き合わせ販売

たとえば「このクレジットカードに加入していただければ、融資条件が優遇されます」といった提案や、「投資信託の購入を条件にして融資を実行します」とする行為は、典型的な抱き合わせ販売です。顧客の自由な判断を妨げ、優越的地位の濫用と判断されます。


5. 過剰な担保要求

融資額や信用状況に対して明らかに過剰な追加担保の差し入れを求められる場合、これは債権保全を口実にした不当要求と見なされる可能性があります。とくに不動産や第三者保証など、経営に重大な影響を与える担保であれば慎重に対応すべきです。


6. 決算月の借入増加要請

「月末までに一時的に借入を増やしていただければありがたい」といった要請。これは金融機関自身の融資残高を決算上増やすために取引先を利用している行為であり、必要性のない資金調達を強いられる場合は違反となり得ます。


7. 経営介入(役員人事への干渉)

「この人材を役員に加えていただけませんか」といった提案が、実は金融機関の意図を通すための介入であることもあります。ときには、融資先に特定の人物の登用を半ば強制し、それ以外の候補を排除することも見られます。


8. 取引先・業務の制限

「他の金融機関とはあまり取引しないでください」といった表現は、公正な市場競争を妨げる可能性があります。これは取引の自由を不当に拘束する行為であり、違法性を帯びる場合があります。


9. 拘束力のない相殺行為

預金残高があるにもかかわらず、債権保全に支障がないにも関わらず、一方的に預金を融資返済に充てる(相殺)といった行為は、信義則に反するものとして問題視されます。

 

 

このような行為に心当たりのある方もいらっしゃるかもしれません。表面的には「お願い」や「提案」として行われることも多いため、違反行為かどうかの判断は難しいこともあります。だからこそ、あらかじめ知識を持っておくことが、金融機関と対等な立場で交渉を進めるための第一歩なのです。

 

 

なぜこのような行為が起きるのか?金融機関側の事情と経営者の注意点

「優越的地位の濫用」とされる行為の多くは、なぜ金融機関側で起きるのでしょうか? これは単に悪意によるものではなく、金融機関が置かれている組織的・構造的な背景に起因しています。


金融機関のノルマと決算プレッシャー

金融機関は毎期ごとに融資残高や金融商品の販売数といった数値目標を設定し、達成のために支店単位・担当者単位での「ノルマ」が設けられています。たとえば、月や月といった半期・本決算時期には、

  • 融資残高を前年同月比で増やす
  • 投資信託・保険商品の販売実績を上げる
  • 自社関連のサービス契約数を増やす

といった数値目標が課されます。こうしたプレッシャーが現場の営業担当者に重くのしかかり、「頼れる顧客」である企業に対して、時に無理な提案や取引を迫ってしまうケースが発生します。

つまり、担当者個人の意図ではなく、組織全体の営業構造がその背景にあるということです。表向きは「提案」や「ご協力のお願い」として伝えられても、その裏には実績獲得のための強い動機がある場合が多いのです。


経営者が陥りやすい「断りにくさ」

一方で、企業側も金融機関に対して依存度が高ければ高いほど、「断ると次の融資に影響が出るのではないか」「今後の関係が悪くなったら困る」といった心理が働きやすくなります。

こうした心理的な圧力によって、不本意ながらも条件を受け入れてしまうことがあります。しかし、それが結果的に不必要な借入や不適切な投資につながり、企業の財務体質を悪化させるケースも少なくありません。


注意すべき兆候と対応のポイント

優越的地位の濫用に発展する可能性がある兆候としては、以下のような言動が挙げられます。

  • 「今回の融資は、定期預金とのセットでお願いしたい」
  • 「金利優遇のためには、投信を買っていただけるとありがたい」
  • 「今月中に契約いただけると、条件が良くなります」
  • 「他の銀行と取引が増えると、こちらとしても対応が難しくなるかもしれません」

このような提案を受けた際には、一度立ち止まり、「それは本当に必要な取引か?」と冷静に判断することが重要です。場合によっては、「その条件がなければ融資は受けられないのか」を確認し、不当な取引条件でないかを見極める力が求められます。

また、重要なのは記録を残すことです。不明確な口頭説明ではなく、書面やメールで確認を取ることで、後々のトラブル回避にもつながります。

 

 

これからの金融機関との付き合い方:主導権を持つ取引を実現するために

金融機関との関係は対立ではなく、対等な協力関係が理想です。そのためには、経営者側が主導権を持ち、自社の経営戦略に基づいた判断を下す姿勢が欠かせません。


1. 情報の非対称性を克服する

金融商品や融資条件について、経営者が十分に理解していないことを前提に交渉されることがあります。したがって、最低限の金融知識を持ち、「知らなかったから断れなかった」を防ぐ努力が重要です。必要に応じて第三者(顧問税理士、財務アドバイザーなど)に同席してもらうことも効果的です。


2. 融資依存度を下げる財務体質の構築

金融機関との関係をより健全に保つには、資金調達における選択肢を広げることが有効です。たとえば、

  • 自己資本の充実
  • 補助金・助成金の活用
  • 資金繰り表の精緻な作成
  • 売掛債権管理の徹底

などを通じて、融資に過度に依存しない体制を整えることが、交渉上の自由度を高めます。


3. 信頼関係の構築と、毅然とした対応

信頼できる金融機関担当者との関係は、経営者にとって大きな財産です。一方で、信頼があるからこそ、納得できない提案にははっきりと「」を伝えることも大切です。相手の立場を理解しながらも、自社の利益と方針を明確に伝えることで、長期的な関係構築が可能となります。

 

おわりに:円の利益を守るために、今できること

この記事でご紹介したように、金融機関との取引には、見えないリスクが潜んでいます。優越的地位の濫用という言葉は難しく感じられるかもしれませんが、その本質は「断りにくい立場を利用して不当な要求をされること」です。

ときには、「あの時の話だ!」と思い出していただければ、不要な借入や不要な商品の購入を防げるかもしれません。たとえ円の利息であっても、それは企業にとって重要なコストです。今できることは、「不必要な借入を断る勇気」と「判断のための知識」を持つことです。

私たちは、経営者の皆さまが金融機関と対等に向き合い、自信をもって判断できるよう支援を行っています。もし現在の金融取引や資金繰りに不安や疑問をお持ちであれば、ぜひ一度、当社までご相談ください。


詳細なご相談は当社までお気軽にお問い合わせください。